「はぁ……」
それは本日何回目になるか分からない溜め息。
もっとも、漏らした本人はそれを意識していないが。
最初はそれを黙って聞いていたミレイだが、ついに堪りかねて口を出す。
「スザク、知ってる?溜め息って、吐いた数だけ幸せが逃げちゃうのよ?」
人の悩みを聞くのはやぶさかではない。ただ、自分からそれを無闇に詮索するような真似はあまり好きではなかった。聞かれたくない場合だってあるだろうし、だいたい、相談したければ自分から言ってくるものだろうから。
よく人から悩みを打ち明けられるミレイは、けれど自分の分をわきまえていた。
もし今生徒会室に二人きりでなければ、こんなこと言わなかったかもしれない。
「…そう、なんですか……」
しかし当のスザクは一応返事をするも、どうも心ここに在らずといった感じだ。
「―――ははーん。さては、恋の悩みね!?」
「は!?や、うぇ、違います!そんなんじゃないです!」
―――物凄く分かり易い反応に思わず笑いが込み上げる。
嘘が吐けない子ねぇ。
「スザクの好きな子かぁ。スザクって可愛い子が好きそうに見えるけど、どんな子なの?」
「だから違いますって!ルルーシュのこと考えてただけです!」
―――え?
「…ルルーシュのこと?」
「はい…。だから違います」
―――『だから』と言われても。
二人が幼馴染みの友人であることは当然ミレイは知っていたけれど、とてもじゃないがあの溜め息は友人のことを思ってする溜め息じゃないと思う。
「…ルルーシュの、何を考えてたの?」
「……いえ、特に何を考えてたってわけでもなくて…なんとなく、思い浮かべてただけなんですけど…」
―――『なんとなく思い浮かべてた』。
『友達』のことを?
……本気で言ってるのだろうか。
ふと数日前の光景が思い出される。
その日は休日だったけれど、急いで仕上げたい書類があったので少し申し訳なく思いつつも生徒会メンバーに集まってもらい、ここで仕事をしていた。
それはお昼になり、恒例となっているピザを取って食事をしているときのことだ。
「スザク、付いてる」
「え、あ。ありがとう」
なんのことはない。
スザクの口元に付いていたチーズを、ルルーシュが指先で拭っただけの話だ。
言ってみればたかがそれだけの話なのだが、たかがそれだけで生徒会室の空気は凍り付いた。
「―――なんだ?どうした?」
「?」
例によって空気の読めないスザクはいまいち分かっていないようだったが、流石にルルーシュは気付いたようだ。
「……や、ルルーシュ。お前さぁ……」
「なんだ?」
「いやぁ…なんでもない……」
半ば諦め顔でリヴァルは彼から目を逸らした。
「―――変な奴だな」
変なのはお前だ!と心の中でツッコミを入れたのは、その場にいた何人だったろうか。
だって拭うだけならまだしも、こいつときたらそれを何の躊躇いもなく舐めとったのだ!
これが恋人同士ならなんらおかしな話ではない。周囲がそれにアてられるだけで済む。
だが、繰り返すが二人は友人なのだ。まして男同士の。
それのそんな光景を見て固まらない方がどうかしている。
ルルーシュが妹を溺愛しているのは周知の事実でそれを彼女にしたのなら分かるが、いくら幼馴染みとはいえ同性の友達にそれはどうだろう!幼い頃ならともかく、今は十七歳の青少年だ!
だいたい、そうされて何の反応も―――それどころか、ほんの少しの焦りすら!―――見せないスザクもスザクだ!
あのルルーシュにこれほどまでに親しい友人がいたこと自体がそれなりに彼らの驚きであったのに、こんなものを見せ付けられてしまっては、その認識から疑わざるを得ない。
―――要するに、『本当にただの友達なの?』だ。
しかし当然そんなこと訊けるわけもなく、皆が皆その疑問を持ったまま今に至る。
―――自分たちのことを友達だと言う二人が、何か隠し事をしているようにはさほど見えない。
ルルーシュならともかく、考えてることが顔に出るタイプだろうスザクからもそれは感じられないので、恐らく二人は確かに事実を言っているのだ。
ということは、お互いに自覚がないだけだということになりはしないだろうか。
些か天然気味なスザクだけなら分かるが、あのルルーシュも、とは…。―――否、ルルーシュは、あれはあれで実は鈍いところがあるので、あながち意外というほどでもないのかもしれない。
―――面倒臭いことになったものだ。
「―――スザク。ルルーシュのこと、どう思ってる?」
「どうって…。友達ですよ。大事な」
首を傾げながら答えるスザクの肩を掴んでガクガク揺さぶってやりたい衝動に駆られる。
ああ、もう!本人たちに自覚がないのを、私にどうしろって言うの!?
流石のミレイ・アッシュフォードも、思わず天を仰いであまり信じていない神に向かって悪態を吐いた。
神様!この無自覚な馬鹿どもに、どうか分かり易くキューピッドでも遣わせてやって下さい!
この関係に名前を
付けるとするならば
当初云々唸ってた話を潔く全部捨てて新しく書き始めたら唸ってたのが嘘のように書きあがったというある意味ちょっぴり寂しかったお話です(長い)。
あの時間を返せ…。
この話のルルとスザきゅはもちろんまだ友達止まりです。
お題が『もどかしい二人』ですから…。
管理人の書くCPは基本的にもどかしいのが多いかも、と思って選んだお題だったんですが、意識して書こうとするとそれはそれで難しかった…。
まあなんとか傍から見たら充分もどかしい二人になってくれたのではないかと思います…。
そしてルル様はスザきゅの口元に付いてるチーズを拭って舐めるくらい平気でするお人だと思います…。
晴れて恋人同士になったらわざわざ指で拭ったりせずに直接舐めとるといいよ…!