「お前が女だったらよかったのに」
「―――は?」
マリア様にはなれません。
ぽつりと呟かれたその台詞。
人のお腹辺りを真剣な顔でじっと見てるから何かと思えば…。
「…ルルーシュ、寝言は寝て言おうよ。それとも、目を開けたまま寝てるの?」
「いや、頭ははっきりしてる」
「じゃあ笑えないジョーク?」
「大真面目に言ってる」
―――尚更悪い。
彼の思考回路はとても複雑なので自分などには考えが及ばないところもあるが、これはそれとは少し違う次元な気がする。
寝言やジョークなら笑い飛ばして終わりだったのに…。
「…えーと、君の言ってることが解らないんだけど…」
「だから、お前が女だったらよかった、と言っている」
いや、だからそれが解らないんだって。
―――ひょっとして、彼は怒っているのだろうか?
彼の部屋に来ても、基本的に自分は泊まらずに帰る。無理をされて気を失ってしまわない限りは(それについては自分でも情けないと思うが、行為の最中自分は常にいっぱいいっぱいなのでしょうがないか、と半ば開き直ってもいる)。
今だって、もうそろそろ帰らなければ、と思っていたところだ。
多分、彼もそれを感じていた。
自分が泊まらずに帰ってしまうことに彼はずっと不満を訴えていたから、それに対しての意趣返しか何かだろうか?
でも、軍人である自分が連絡の付かないところに長く居座るわけにはいかない。
学校や他の場所ならともかく、自分たちのこの関係を除いたとしても、ここは、特派にだって行き先を告げていい場所じゃない―――。
―――それとも……。
「……やっぱり、女の子の方がいい、かな……」
「っ、違う!そういう意味じゃない!」
彼はそう言うけれど。
男である自分の身体は、全くもってつまらないものだ。
女の子のように柔らかくもないし、胸だって真っ平ら。おまけに余計なモノまで付いている。
そんな自分を抱きたいと言った彼の気持ちが最初は理解らなかった。
だって同性の身体だ。
そんなものに欲情するなんて不思議で堪らなかったけれど、今なら理解る。
好きな人には触れたいと思う。
もっともっとと、その先を知りたくなる。
つまり、そういうことだ。
「本当に、違う。勘違いするな。俺にはお前だけだ」
「―――っ」
一気に頬が上気するのが分かる。
あっさりと、恥ずかしげもなく、ああもう、この男はっ!
よくそんな平然とした顔で…!聞いてるこっちが恥ずかしくなる!
「スザク?聞いてるのか?」
「っ、聞いてるよ!」
俯いてしまった僕の顔を覗き込みながら近距離で訊ねる。
近い!
あんなこと言った後でそんな顔でこんな距離でなんて反則だ!
落ち込んでいた気持ちが、見る間に霧散していく。
なんて現金なんだ僕は!
熱くなってしまった顔を誤魔化すように僕は話を戻す。
「じ、じゃあ、どういう意味なんだよ。そういうふうにしか取れないんだけど」
「別に、たいしたことじゃない。ただ、お前が女だったら簡単だったのになって思っただけだ」
「…簡単って、何が…?」
不貞腐れた顔で彼が続ける。
「俺の子供を孕ませればお前はどこにも行かないだろう?」
―――一瞬目の前が暗くなったのは気のせいじゃないと思う。
はっ、はらっ、孕 ま せ…って……!!
そんな子供みたいな顔して言うことかっ!
「―――……馬鹿じゃないの?」
「なっ、何を言うか!さっきも言ったが、俺は至極大真面目だ!」
「余計悪いよ!何考えてんだ!?そんな女性を物みたいに!」
「って、そっちか!お前が怒ってるのは!自分がそう言われたことはどうでもいいのか!?」
「っ、それは―――」
もちろんよくない。
ちっともよくない。
だけど、どうしてだろう。
それほど怒りが湧いてこない。
何故だろう?
あまりにも現実味に欠けることだからだろうか?
だって自分が女の子だったらなんて、想像もできない。
「……よくない、よ…。結局、女の子の方がいいってことじゃないの…?」
そうは言ってみたものの、実際にそう思ってるわけじゃない。
それくらいしか反論の言葉が思い浮かばなかったからその場しのぎで言っただけだった。
「違う。お前じゃなきゃ意味がない。俺はお前がいいんだ」
「っ、―――…そ、う……」
また赤くなってしまった顔を見られるのが嫌でまた自然と俯いてしまう。
どうしてそんなことをさらりと言ってしまえるんだ彼は?
いちいち動揺してる自分が馬鹿みたいじゃないか。
「そもそも、お前が俺の傍にいないからいけない。泊まっていけと言ってるのに、いつもいつも…」
―――ああ、なんだ。やっぱり、彼は。
「……ひょっとしてルルーシュ、拗ねてるの?」
「なっ、すねっ。―――誰が拗ねてなんかいるかっ!」
思わず笑みが零れる。
なんだ、やっぱり、そうだったのだ。
七年振りに再会した彼は、とても大人っぽく美しく成長していた。当たり前だけれど、声もあの頃より全然低く。確かに少々がさつにはなっていたけど、やはり彼の引く血故なのか、どこかしら気品のようなものも漂っていて。
自分は歳の割りには子供っぽい見目をしているので、それが少し羨ましくもあり、少し、ほんの少し、彼が遠くに行ってしまったような錯覚を覚えて。
けれどこんな彼を見ると、昔と全然変わっていなくて、安心する。
相変わらず意地っ張りで、変なところで素直じゃない。そしてちょっとしたことですぐに拗ねる。
ルルーシュは、やはりルルーシュでしかない。
そう思うと、気のせいかほんの少し頬を赤らめてそっぽを向いている彼が、とてもいとおしいものに見えてくる。
ああもう、しょうがないなぁ。
「…今日だけだからね」
「―――…?」
「泊まっていくって言ってるんだよ。これ以上ヘソ曲げられたら堪らないからね」
「っ、……そんな、人を子供みたいに言うな」
ぶすっとして言いながら、どこかその表情は嬉しそうだ。
単純だなぁと思いながらも、そんな彼に絆されている自分も大概単純だと思う。
夜明けまでにはまだ時間がたっぷりある。
とりあえず、もう1ラウンドですか?
憮然とした面持ちの彼に、滅多にない(恥ずかしいからだ!)僕からのキスを仕掛けがなら、吐息だけでそう訊ねた。
読む分には女体化も範疇内な管理人ですが、多分自分では書けないだろうなぁ…。
と思ってせめてこれくらいなら、と考えたのがこれです。
思った以上にスザクが乙女化しております…。
私は受けが乙女化してても全然平気な方なので気にならないんですが…。
駄目な方すみません…。
ちなみに最中いっぱいいっぱいなのはただ単にその方が私的に萌えなだけです…。
冷静に考えたら童貞なルルに経験のあるスザクだもの、そんなことないと思うんだけどねぇ(笑)。
だっていっぱいいっぱいな方が可愛いじゃないですか…。
ていうか5つ目にしてやっとまともなルルスザ話ってどうなの。