目を覚ますと見慣れない天井だった。暗かったが、自分は視力は良い方なのでそれくらいは判別できた。
自分に与えられている部屋ではない。
とりあえず身体を起こそうとして、全身に走った激痛にそれを阻まれる。
痛い。痛い。尋常じゃなく痛い。何だこの痛みは。
そこでようやく自分が横たわっていたのがベッドではなく、ソファであることに気が付いた。これには見覚えがある。―――そうだ。生徒会室に置いてあるものだ。でも、何故自分が此処に?
辺りは既に日が落ちていて暗く、部屋の照明さえ点けられていないので頼りは窓から差し込む月明かりだけだ。
何故こんな時間まで自分は此処に居たのだろう?
―――……ちょっと待って。ひょっとして、僕今何も着てなくない?
我ながら気付くのが遅過ぎるとは思ったが、そんなこともうどうでもいい。どうして制服の上着だけを掛けてこんなところで寝てたんだ僕は!?
混乱した頭でそこまで考えて、ふと唐突にそれがよぎる。
『どうしてお前はいつも……!』
「―――あ…」
……そうだ。
自分は、彼に。
「……強 姦…されたんだ……」
男が襲われた場合も強姦と言っていいのだろうか。まあ間違ってはいないのだからそれでいいか。そもそも問題はそんなことじゃない。
何の会話をしていたのかはなんとなく覚えている。ただ、何処かで何かが彼の逆鱗に触れてしまったようではあった。それが何であったのか、自分には理解らない。
普段は至って冷静だが、実は彼は激情型だ。彼にとって我慢ならないことに直面すると激昂することがしばしばあった。どうもその対象のほとんどが自分に関わることであったようにも記憶しているが、いくらなんでもそれはきっと自分の思い込み過ぎだろう。
とにかく、彼はカッとなると口調を荒げることも少なくなかった。が、手を上げるようなことは決してなかった。そんな彼を見たのは、初めて彼に会ったあのときだけだ。
なので、すっかり油断していたのかもしれない。
体力面においては彼に負ける気がしない。頭が良い方ではない自分は、その辺について彼に勝った試しはないが、およそ純粋な力比べではまず間違いなく自分が勝つだろう。彼に体力馬鹿と言われても何の反論もできない所以だ。
しかし、だからこそそんな自分が彼に押し負けるなんて!
―――……否、違う。
恐らく数時間は前だろう、先程の自分のことを思い出してみる。
確かに、最初彼にソファに押し付けられたのは、間違いなく自分が油断していたからだ。だが言い訳をさせてもらえれば、だって此処は学校で、相手は彼で、どうして警戒する必要がある?少しくらい気が抜けていたって、責められる謂れはないだろう。
でも其処から彼が乱暴に自分の制服を掴み引っ張ったせいでボタンが弾け飛んだのを見ても、何処からどう見ても真っ平らな自分の胸に彼が顔を埋めたのを見ても、彼が自分に何をする気なのかが理解ってでさえも、自分の身体が動くことはなかった。
押し退けようと思えば簡単にできた。何をするんだと彼を床に突き飛ばすことももちろん可能だった。想像以上に彼の力は強かったけれど、自分のそれほどではない。拒絶することは、可能だった。
けれど、この身体がそれを実行することはなかった。
些かの抵抗はしたけれど、恐らくそれは自分の意思というよりかは生物的なただの反射行動であった。だって彼を拒もうだとか気持ち悪いとかいう気持ちは、不思議なほど浮かんではこなかったのだから。
ただ何に対して彼がそこまで怒りを覚えたのかが理解できなかった。
他に最中で覚えていることといえば、ほとんど慣らされずに挿入れられたせいで感じた激痛と、想いの外熱かった彼の体温と肌を滑る艶やかな彼の髪の感触と、汗が伝う、初めて間近で見た彼の美しい顔くらいだ。
ああ、あと、相変わらず美しい瞳の色だなぁなんて似つかわしくないことを、漠然と考えていたりもした。
―――…どうして、自分は抵抗しなかったのだろう。
だって男同士でなんて可笑しい。否、そういう性癖の人たちを否定する気は更々ないが、少なくとも自分と彼の間にはそういったものはなかっただろう?彼に確かめたことはもちろんないが、確かめる必要なんてなかった。はずだ。少なくとも自分はそう思っている。
自分と彼の間には友情しかなかった。自分はそう信じている。七年もの空白の期間があれどそれは変わってはいなかったのだと、安堵すらしたものだ。
彼も、そう思ってくれていると信じている。少なくとも、同じ男である自分に、よもや劣情をもよおしたりは、していなかったはず、だ。
もちろんそれも確かめたことはない。というか、そもそも確かめる必要が何処にある?自分と彼は幼馴染みの友人であって、確かに自分にとって彼は大事な存在ではあるけれど、決してそれ以上でもそれ以下でもない。
そしてそれについてもきっと彼も同じだったと信じている。だって彼はよく、自分の為に怒ってくれていたのだから。自分がもういいと思っていることにでさえ、彼は怒りを露わにし、お前はそれでいいのかと叱咤されたものだ。普通はそれなりに大事に思っている人間にでないと、そういうことはしないと思う。だからきっと彼も、そう思ってくれていた。そういうことがあったからこそ、自分はそれを信じることができる。
だからこそ、例え彼が何かについて怒ってしまったのだとしても、怒鳴られこそすれ、無理矢理に身体を繋げられる覚えなどない。
そしてそれを自分がそれなりに甘受してしまった理由も、理解らない。
ただ本当に、身体が動かなかっただけなのだ。彼の真剣な瞳や熱い吐息に気を取られていたわけでは、決してない、と思う。
今は痛むだけの身体がどうしてだか少しの快感を覚えてしまったのも、きっと動物的本能なのだ。痛みだけでは辛いから身体がどうにかして楽になろうとした結果、僅かなそれを拾ってしまっただけなのだ。
どうしようもなく漏れ出た耳を疑いたくなるような自分の甘い声も、彼の手によって達してしまったことも、身体の内側に感じた彼の熱いそれと飛沫にさえ身震いしてしまったのも、きっとそのせいなのだ。
だから明日からも、自分と彼は友人だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
ただ明日、どんな顔して彼に会えばいいのか分からない。でも、きっとそれは彼も同じだろう。彼は優しい人だから。大丈夫。僕は知っているよ。君が本当は、とてもとても優しい人だって。きっと怒りに身を任せていたのであろ最中のときでさえ、僕の肌を這う君の手に微かな優しさを感じたのは、僕の気のせいじゃないはずだ。僕のことを此処に放ったらかしにしたのだって、きっとどうしたらいいか分からなかったからなんだよね?だってその証拠にせめてもと、君はこうして制服を掛けていってくれた。君が不器用なことも知っているよ。だから、大丈夫。僕は怒ったりしないよ。
君があんなに怒ったのだって、きっと僕のことを思ってのことだったんだよね?僕のことを思ったが為に、あんなに怒ってくれたんだよね?残念なことに君が何に対して怒ったのかまでは僕には理解らないけど、そのことだけは、理解るよ。だから、君を怒ったりしない。優しい君はきっと今頃後悔しているだろうから。怒ったりしない。
もし明日君が謝ってきたのなら、僕は何事もなかったように振る舞うことができるよ?だから気不味さに、僕を避けるようなことだけはしないで欲しい。だってそんなことをされたら、僕は逆にどうしていいか理解らない。きっと哀しい気持ちになる。被害者なのは僕の方なんだけど、その様を想像しただけで胸が締め付けられるようになるから、きっときっと、普段どおりで僕に接してくれ。いっそなかったことにしてもいいから。大丈夫。僕は男だ。これくらい気にしない。
未だ身体に残る痛みよりもそのことだけが、今は気掛かりだ。
「―――、痛っ……」
なんとか身体を起こそうとして、痛みが全身を走る。
正直言って辛いけれど、このままずっと此処にいるわけにもいかない。力の入らない腰から下を叱咤して、ソファに手を掛け立ち上がろうとする。
「―――っぁ」
太腿を何かが伝う感触。ぶる、と身体が震える。
「……、っふ……」
何か、は一瞬後に分かった。彼が自分の内に放った熱だ。
「――――」
甘い情事などでは決してなかったのに、どうしようもなく恥ずかしくて居た堪れなくなる。そのとき、ぽつり、と、何かが落ちた。
「……?」
何とはなしに、そ、と頬に手をやると濡れていた。
「……―――あ、れ……?」
何故自分は泣いているのだろう。
どうして涙が零れるのだろう。
ルルーシュの優しく微笑む顔が思い出されるのは、どうしてなんだろう。
「……ル ルー、シュ……」
涙よりひっそりと零れ落ちた名前は、月明かりが支配する静かな生徒会室に溶けて消えていった。
誰も知らない。
…えーとですね。
書いたのがもうだいぶ前なので、ぶっちゃけ何をどう思って書いたのかあまり覚えていません…。
でも書き上がって、出来上がりに満足したのだけはよく覚えてます(笑)。
しかしですね。
これの後に書いて本にしたやつが、なんとな〜くこれに似てしまって…。
話そのものは全然違うと思うんですが、正直微妙か も…。
せめて発表が本が先になったのがせめてもの救いです…。
ていうか、あんまりにも眠いときにこのアプ作業してるので誤字脱字たんまりな予感…。
実際確認してると思わず笑ってしまうような誤植発見(笑)。
アプする前にもちゃんと見直してるんですが…。
これに限らず、いつもしっかり見直してるにも関わらず後々絶対1コくらい見付かるんだよなぁ…。
このお話においてルルが怒った理由ですが、それはご想像にお任せするということで…(おぉい)。
特に考えてないなんて言いませんとも(笑)。
ルルはよくスザクには怒ってるので、いくらでも理由は出てくるかと思います。
ルルがスザクに対してはヤケに沸点が低いのは、きっとスザクのことが大事だからよ!と確信している管理人です。
だってどうでもいい人に対して怒るなんてないし!
ルルがスザクにはしょちゅう怒ってるイメージがあるのは、ルルにとってスザクが大事な人だからだと確信している管理人です(二回言うな)。
ちなみにナナリーは別格なので怒りの対象外な感じで(笑)。
ルルにとってナナリーは、ただ幸せに微笑っていてくれればいい存在だと思うので…。
ナナリーとスザクはどっちもルルにとってはとってもとっても大事な存在だけど、向けてる気持ちの種類は違いますもんね。
ヤっちゃった理由は…。
これは流石に考えてますが、それもご想像にお任せします。
スザクがどうして抵抗しなかったのか、どうしてスザクの身体はルルを跳ね除けようとしなかったのかについても、ご想像にお任せします。
と言うよりタイトルどおり、誰も知らないのです。
ちなみに、某邦画とは何の関係もございません(笑)。